吉田修一『パレード』は純文学好き、ミステリー好きともに楽しめる稀有な小説【レビュー】

2018年12月31日

1000冊以上の本を読んできた読書好きライターが「これぞ!」と思った小説を紹介するブログコーナー。

「文学性の高い作品を味わいたい」

「大どんでん返しを楽しみたい」

相反するようにも思える希望を満たす、読み手としては一挙両得の素晴らしい小説があります。

吉田修一さんの『パレード』です。

純文学好き、ミステリー好きの双方が満足できる稀有な一冊。ぜひ読んでほしい。


吉田作品 映画名として知っている人も多いのでは


妻夫木聡さんと深津絵里さんが出演した『悪人』、高良健吾さんがのんきな大学生を好演した『横道世之介』。

2つの映画をご存知の人も多いのではないかと思いますが、ともに原作は吉田修一さんの同名小説です。

吉田修一さんの小説は多くが映画化されていて、この2作品以外にも、2016年公開の『怒り』、『さよなら渓谷』、『女たちは二度遊ぶ』、『Water』、『7月24日通り』(映画名は7月24日通りのクリスマス)が挙げられます。

今回紹介する『パレード』もそう。

『世界の中心で、愛をさけぶ』『GO』などの行定勲監督がメガホンを取り、キャストには藤原竜也さん、貫地谷しほりさん、小出恵介さん、林遣都さん、香里奈さんが名を連ねます(添付動画は予告編)。

映画版は、第60回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しました。

吉田修一さんのプロフィールと受賞歴

吉田修一公式サイトより引用

吉田修一さんは1968年生まれ、長崎市の出身です。

法政大学への入学を機に上京し、大学を卒業した後は就職せずにスイミングスクールのインストラクターなどのアルバイトで生計を立てていたそう。

そして「24、5歳のころにきっかけなく」小説を書き始め、97年に『最後の息子』で文學界新人賞を受賞して作家デビューを果たします。

それから、作家としての評価はうなぎ登り。

2002年に『パレード』で山本周五郎賞を、同年に『パーク・ライフ』で芥川賞を受賞。

07年に『悪人』で毎日出版文化賞と大佛次郎賞を、10年に『横道世之介』で柴田錬三郎賞を受賞。

作品は英語や仏語、中国語、韓国語などにも翻訳され、今では世界的に注目される小説家に成長しました。

2016年からは芥川賞の選考委員も務めています。

『パレード』のあらすじ

簡単な『パレード』のあらすじはこうです。

都内の2LDKマンションに暮らす男女4人の若者たち。「上辺だけの付き合い? 私にはそれくらいが丁度いい」。

それぞれが不安や焦燥感を抱えながらも、“本当の自分”を装うことで優しく怠惰に続く共同生活。

そこに男娼をするサトルが加わり、徐々に小さな波紋が広がり始め…。―Amazonより引用

『パレード』の面白さ

冒頭にも挙げましたが、『パレード』の、引いては吉田修一さんの作品の面白さは、文学性と物語性が同居していることです。

両方を備えている小説って少ないと思うんですよね。

筋(物語)は面白いんだけど、キャラクターが画一的で深みがないんだよなあとか、逆に、人間とは何か、生きるとは何かを考えさせられるけど、物語の起伏が乏しいから読みにくいなあとか、そんなことを思ったことってありませんか?

ぼくはあります。

吉田修一さんの『パレード』は登場人物が魅力的で心理描写に深みがあり、さらに最後にあっと驚くどんでん返しもある

魅力的なキャラが織りなす青春小説

『パレード』の形式はいわゆる群像小説というもので、5人の視点が変わりながら物語が進んでいきます。

中でも、1人目の語り手である地方出身の大学3年生、杉本良介のキュートさ、憎めなさは多くの読者の心を掴むのではないでしょうか。

自分たちが住むマンション4階のベランダから眼下の道路を見下ろして、「なんでこんなに多くの車が走ってるのにぶつからないんだろう」とぼんやりと不思議がる良介。

先輩の彼女に一目ぼれをしてしまい、彼女の動向を探るために用もないのに何度も先輩に電話をしてしまう良介。

切ない恋心にいてもたってもいられず、同居人の大垣内琴美の枕元で恋愛相談をしてしまう良介。「恋愛相談で、相手に本当のことを言うなんて許しがたい違反行為だ」と冷たくあしらわれたことに文句を言ってしまう良介。

傍から見れば「お気楽」と言われてしまいそうなのに、自分のことは棚に上げ、若手俳優に恋する琴美のことを「日がな一日ドラマを見たり枝毛を切ったりして連絡を待ち続けている」と一段下に見てしまう良介。

ちなみに、彼愛用の中古のマーチ「桃子」は必ず10キロ走るとエンストしてしまう。

突っ込みどころが満載なのにも関わらず、「何だかわかるなあ」と共感してしまうんですよね。

『横道世之介』のヒットには主人公・世之介の魅力的なキャラクターが大きく影響していると思うんですが、良介は世之介に似ているかわいらしいヤツです。

良介以外の4人、琴美、イラストレーター兼雑貨屋店長の相馬未来、男娼の小窪サトル、映画配給会社に勤める伊原直輝もそれぞれに異なる過去と思いを持って今を生きています。

彼ら彼女らの物語は爽やかでありながら、チクッとした痛みもある。

『パレード』はまず、読み心地の良い青春小説として優れています。

表現が巧み、人物に深みがある文学小説

表現が巧みで人物に深みがあることも本作の特徴です。

印象に残ったものをいくつか紹介します。直輝のものは会話、ほかは心理描写です。

「話したいことではなく、話してもいいことだけを話しているから、こうやってうまく暮らせているのだ」(良介)

「(チャットサイトに絡めて)そこは善意のみが入場可能な、出入り自由の空間なのだ。たぶん私たちが暮らしているこの部屋も、そんな場所なのだと思う」(琴美)

「結局、琴も良介も、自分たちのそばにいてほしいと願う人物像を、サトルに重ね合わせているのだと思う」(未来)

「お前が知ってるサトルしか、お前は知らないんだよ。―だから、みんなが知ってるサトルなんて、誰も知らないんだよ。そんな奴、この世には存在しないの」(直輝)

「どう考えても、あそこで知り合っていなければ、絶対に口もききたくないタイプの奴らばかりだ。それなのに、どうもあの連中の中に入ってしまうと、自分でも不思議なくらい、一緒にいて楽しくて仕方がない」(サトル)

人間って怖い… ラストは衝撃のダブルパンチ

どうでしょう。読んでみたくなりませんか?

和気あいあいとした雰囲気の共同生活。でも実際は一人ひとりが案外冷めていて、空間の和を壊さないように自分の役割を演じているとも言える。

人物の心の声が非常にリアルで今っぽいんですよね。

特に、上に挙げた直輝のセリフにはしびれました。

みんなが知ってるサトルなんて、誰も知らないんだよ。そんな奴、この世には存在しないの。

これってとてもシンプルな真実ですよね。でも同時に、意識しづらいことである。

AとBという2人の人間がいたとして、Aが知っているB像というのは、あくまでもAの立場や性格などから成り立つものです。

Cという人間もいたとして、Cから見るB像というのはCの感覚によってAからのB像とは違ってくるわけで、またBもCの立場や性格を考慮してAに対するときとは違う振る舞いをする可能性がある。

だから、普遍的なその人というのは存在しない。

言葉で書くのは簡単なんだけど、ぼくたちは人と人との関わり合いの中で生きているので、知らず知らずに相対する人を固定化してしまうし、また他の人もたぶんそう思っているんだろうなんて楽な認識をしてしまいがち。

パレードを読むと、普段は意識しづらい、でもとても大切な真理に気付くことができます。

そしてラストのどんでん返しも「人物像」に関わるもので、人間の怖さがさく裂します。しかも2回

えっ、まじか…。と驚いた後にさらに驚がくが続きます。

ぜひ、衝撃のダブルパンチにやられてください。ぼくはノックアウトされました。

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参考

吉田修一公式サイト

作家の読書道

ベストセラーズインタビュー